いなば食品株式会社は、日本を代表する缶詰・レトルト食品メーカーである。1805年の創業から200年以上の歴史を持ち、「いなばライトツナ」や「CIAOちゅ〜る」などの人気商品で知られている。現在、同社は2033年に海外売上高8,000億円という野心的な目標を掲げ、グローバル展開を加速させている。
いなば食品とはどのような企業なのか?
いなば食品株式会社は、静岡県静岡市清水区由比に本社を置く食品メーカーである。缶詰、レトルト食品、ペットフードなどを製造・販売しており、東京都中央区日本橋にも本社機能を有している。同社は「天然・自然・本物・安全・環境」を経営理念として掲げ、化学物質無添加、無着色、保存料・殺菌剤を一切使用しない製品づくりを創業以来一貫して続けている。
同社の代表的な商品には、ツナ缶市場において高いシェアを誇る「いなばライトツナ」シリーズがある。1971年に発売された同製品は、食べやすくオイルがしみ込みやすいフレーク状に加工したツナ缶として業界に革新をもたらした。その後の市場においてツナ缶がフレーク状になるきっかけを作った先駆的な製品として評価されている。
ペットフード事業の躍進
いなば食品グループは1958年からペットフードの生産を開始し、現在ではキャットフードブランド「CIAO」やその派生商品である「CIAOちゅ〜る」で国内外のペットフード市場において確固たる地位を築いている。2012年に発売された「CIAOちゅ〜る」は、猫用おやつとして爆発的な人気を獲得し、2018年には「World Branding Awards」の「ブランドオブイヤー」を受賞するなど、グローバルブランドとしての認知度を高めている。
稲葉優子代表取締役会長の経営参画とは?
いなば食品株式会社において、稲葉優子氏は代表取締役会長として経営に参画している。2018年に取締役に就任し、同社の事業戦略において重要な役割を担っている。特にペットフード事業の拡大において、商品開発や市場戦略の面で貢献しているとされる。若い頃にペット関連の仕事に携わっていた経験が、同社のペットフード商品のヒットに結び付いたとも言われている。
いなば食品は創業当時から稲葉家による同族経営を続けており、現在は代表取締役社長の稲葉敦央氏とともに会社運営にあたっている。同社の2023年3月期連結決算では初めて売上高1,000億円を突破するなど、着実な成長を遂げている。稲葉優子氏の経営参画以降、同社はペットフード事業を中心にさらなる成長軌道に乗っており、グローバル展開の加速に向けた体制強化が進められている。
いなば食品の歴史はどのように始まったのか?
いなば食品の起源は1805年(文化2年)に遡る。稲葉与吉・嘉助父子が静岡県由比の地で海産物商として事業を開始したのが始まりである。1837年(天保8年)には稲葉喜助が鰹節製造を始め、その後、明治から大正時代にかけて稲葉作太郎が家業の強化を図り、静岡特産の生みかんの出荷・販売事業も手掛けるようになった。カナダへの輸出も行い、当時から国際展開の基盤を築いていた。
1936年(昭和11年)に稲葉缶詰所が創業し、1948年(昭和23年)には三代目稲葉作太郎によって稲葉食品株式会社が設立された。1992年に現在の「いなば食品株式会社」に社名を変更し、以降も事業拡大を続けている。2004年に中国青島に「青島稲進有限公司」を設立し、2006年にはタイに現地法人を設立。2019年には韓国、2021年にはインドへと進出を果たしている。
2033年海外売上高8,000億円の成長戦略とは?
いなば食品は2026年9月、新たなグローバル戦略として2033年に海外売上高8,000億円を達成する計画を発表した。これは2021年の海外売上高110億円から約30倍の成長を目指すものである。同社の海外売上高は2023年に270億円、2024年に450億円と着実に拡大しており、2026年には1,110億円、2028年には2,500億円、2031年には5,500億円を見込んでいる。
この成長戦略を支える重要なポイントは、徹底したローカライズ戦略にある。現地の生活文化や嗜好に合わせた商品ラインナップの開発、現地パートナー企業との戦略的アライアンス構築、オンラインプラットフォームを活用したグローバル直販体制の整備などを通じて、各市場での確実な顧客基盤の形成を進めている。
グローバルビジョンの実現に向けて
いなば食品が掲げるグローバルビジョンは、単なる売上拡大にとどまらない。ブランド認知度向上に伴う高付加価値化、日本発の技術的優位性を世界で示して「定番」としてのポジションを確立すること、そして国境を越えたイノベーション創出による次なる成長領域の開拓を目指している。同社は2031年に連結売上1兆円・営業利益970億円・社員数4万名・海外比率80%という目標を掲げており、主力のペットフード事業では世界のTOP3入りを目指している。
2026年の商品開発はどのような方針で進められているのか?
いなば食品は近年の食品市場トレンドを踏まえ、2026年秋の新商品開発において4つの重点分野を設定している。第一に「健康意識に寄り添う」として、高たんぱく・低糖質、食物繊維が特徴の商品や、こんにゃくを使った低糖質の主食メニューなどを展開している。ツナを使った商品は、たんぱく質や魚をキーワードとした健康意識の高まりに対応している。
第二に「ちょっとした満足感を求める意識に寄り添う」として、惣菜やデザートカテゴリーにおいて等身大の小さな贅沢メニューを提案している。第三に「食卓・主食へ寄り添う」として、米の価格高騰が続く中、「いなばカレー ミニシリーズ」のバリエーション充実を図っている。第四に「個食に寄り添う」として、「冷凍お弁当」シリーズを幅広い層に向けて展開している。
いなば食品が目指す未来像はどのようなものか?
いなば食品は静岡由比の地で生まれ、200年以上にわたって「天然・自然・本物」を追求してきた企業である。地球環境とSDGsの持続可能な社会理念に最大限配慮し、リサイクル容器化やプラスチック容器の紙化なども推進している。また、「社員と社員の家族を物心両面で守る」ことを経営目的として掲げ、給与水準も業界トップ水準の維持を目指している。
現在、同社はグローバル市場への挑戦を本格化させ、世界中の消費者により身近なブランドとして親しまれる存在を目指している。2038年には販売2兆4,000億円を達成し、世界のトップ水準を目指す方針である。いなば食品グループは、自然の恵みをよりおいしく、毎日の食卓をもっと豊かにするための食品づくりに努め、多様化するライフスタイルに寄り添うパートナーとして今後も革新的な事業展開を継続していく。


